飛び立てなかった朝と、飛び跳ねた夜と。

trip

飛び立てなかった朝と、飛び跳ねた夜と。

2025.6.19 Thu.

朝、目を覚ました瞬間、全てを悟った。
飛行機の搭乗時間はとうに過ぎていた。昨夜の飲みすぎを呪いながら、冷えた水で顔を洗い、慌てて新幹線を手配する。ギリギリ間に合った。そんな、どうしようもなく抜けた始まりだった。

だけど今日という日は、それだけじゃなかった。

京セラドーム。
巨人対オリックスの交流戦。
ただの観戦じゃない。当店の常連さんと意気投合して、これはもう本気の「応援ツアー」。あの夜、「一緒に行こう」と声を掛け合ってから、ずっと楽しみにしていた。

ドームに入ると、広がるグリーン、響く打球音、応援歌。胸の奥が高鳴る。試合前の緊張感に、手が自然と握り締められていた。

しかし——
試合は、巨人の敗退という結果に終わった。

終盤、打線は沈黙し、マウンドの背中がやけに遠く見えた。
それでも、あの空間に立ち会えたことに悔いはない。心から声を出して応援した。ハイタッチした。飛び跳ねた。声が枯れるほど叫んだ。

勝ち負けじゃない、と言えば嘘になる。
けれど、共に熱くなれる仲間と、ひとつの時間を共有できる幸福は、それだけで十分な収穫だった。

試合後、ふたたび神戸の宿へ。
あの子が、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。

「飛行機、乗れなかったんでしょ」
「……バレてた?」

笑い合う声が、静かな夜のロビーに溶けていった。