30年ぶりの福井行き。
目的はたったひとつ——祖父の墓参りだった。
なんの確証もないままの出発だった。
手がかりは、叔父から聞いたひとつのお寺の名前だけ。
それでも、不思議と迷う気はしなかった。行けばきっと、辿り着ける気がしていた。
小松空港に降り立ち、北陸新幹線で福井へ。
夏の陽射しは強く、空気はやわらかだった。
お寺へ向かう道中、能登の震災で墓標がずれていたと聞き、不安もあった。けれど、静かに並ぶ墓石の中から、祖父の名を見つけたとき、胸の奥がじんと温かくなった。
無事だった。
ちゃんと、ここにいた。
風の音さえ、どこか優しく聞こえた。
墓を掃き、手を合わせる。
30年分の言葉は、声には出なかったけれど、たしかに届いた気がした。
その日の宿にチェックインしたあとは、福井の夜の街へ。
ここからが、旅のもう一つの楽しみ。
地図にもガイドにもない自分だけの「一軒」を探して、路地裏を歩く。
灯りの具合、のれんの色、店内のざわめき。そういうものをひとつひとつ確かめながら、気のすむまで歩く。
そして、ようやく出会えた。
カウンターの中には、きりっとした目元の女将さん。
この人がいたから、今夜は福井の夜が、忘れがたい夜になった。
地酒の味も、語られた昔話も、そっと出された小鉢のぬくもりも。
すべてが、旅の続きを深めてくれるようだった。
祖父に会いに来たはずが、気づけば、自分のルーツに少し近づいたような。
そんな福井の一日。